相続・遺言

亡くなった人の権利が「誰に」「どうやって」承継されるのか等を規定するのが、民法第五編の相続法と呼ばれている部分です。
昭和55年以来、実質的な改正がされてきませんでしたが、より現在の社会状況に即した規定とするために、民法および家事事件手続法の一部が改正されることとなりました。

不動産(土地・建物)を相続したらまず登記

相続によって不動産を取得した場合、それが自分のものであることを他人に明確に示すために登記をしますが、登記しなければ罰せられるというわけではありませんでした。
「相続登記の申請は義務ではなく、申請しなくても不利益を被ることは少ない」と考える人もいるようですが、不動産をめぐる相続問題は、とかくスムーズにいかないことも多くあります。
長い間相続登記を放置しておくと、相続権のある人が次第に増えて、遺産分割協議を調えることが難しくなり、不動産をめぐる法律問題をさらに複雑にします。
また、相続登記には、相続関係者の戸籍謄本や除籍謄本、遺産分割協議書など多くの書類が必要になりますが、この登記手続に必要な書類も多くなってしまいます。
さらに、相続登記未了のため所有者が不明となっている土地・建物が、災害復旧事業等の支障になったり、空家問題を引き起こしたりします。

法定相続情報一覧図の活用

以前は、相続手続において、お亡くなりになられた方の戸籍謄本や除籍謄本など一式を何組も用意して、相続手続をおこなう金融機関や法務局、税務署の窓口に何度も出し直す必要がありました。
平成29年5月末からスタートした「法定相続情報証明制度」は、登記所(法務局)に戸籍謄本や除籍謄本など一式を提出し、併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出することで、法務局からその一覧図に認証文を付した写しが無料で交付されます。
その後の相続手続は、法定相続情報一覧図の写しを利用することで、戸籍謄本や除籍謄本など一式を何度も出し直す必要がなくなります。
◆被相続人との続柄について、戸籍に記載される続柄を記載することで、原則として相続税の申告書の添付書類に法定相続情報一覧図を使用することができます。
◆令和2年10月26日から、相続に関連する各種年金等手続(例:遺族年金、未支給年金および死亡一時金等の請求に係る手続)において、死亡した保険給付の受給権者または死亡した被保険者もしくは被保険者であった者との身分関係を証する書面として、法定相続情報一覧図の写しが利用できるようになりました。
◆本制度を利用することができる方は、お亡くなりになられた方の相続人です。
また、この制度の申出は、申出人からの委任により弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士および行政書士に依頼することができます。
◆被相続人や相続人が日本国籍を有しないなど、戸除籍謄抄本を提出できない場合は、この制度を利用できません。
◆法定相続情報証明制度の具体的な手続について
法定相続情報証明制度の具体的な手続は、次のとおりです。

STEP1必要書類の収集
・被相続人(亡くなられた方)の戸除籍謄本
 出生から亡くなられるまでの連続した戸籍謄本、除籍謄本および改製原戸籍
・被相続人(亡くなられた方)の住民票の除票
・相続人の戸籍謄抄本
 相続人全員の現在の戸籍謄本または抄本(被相続人が死亡した日以後の証明日のものが必要です。)
・申出人(相続人の代表として手続を進める方)の氏名・住所を確認することができる公的書類
 具体的には、次の書類のいずれか一つに原本と相違がない旨を記載し、申出人の記名をします。
 運転免許証の表裏両面のコピー、マイナンバーカードの表面のコピー、住民票記載事項証明書(住民票の写し) など
・(法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合)各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)
STEP2法定相続情報一覧図の作成
被相続人(亡くなられた方)および戸籍の記載から判明する相続人を一覧にした図を作成します。
STEP3申出書の記入、法務局へ申出

STEP1で用意した書類、STEP2で作成した法定相続情報一覧図と申出書を提出します。
申出をする登記所は、以下の地を管轄する法務局のいずれかを選択することが可能です。
(1)被相続人の本籍地(死亡時の本籍を指します。)
(2)被相続人の最後の住所地
(3)申出人の住所地
(4)被相続人名義の不動産の所在地

「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」等について

所有者不明土地の増加等の社会問題を受け、所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」を図り、民事基本法制の見直しが令和3年4月28日公布され、公布後2年以内の政令で定める日(相続登記の申請の義務化関係の改正については公布後3年、住所等変更登記の申請の義務化関係の改正については公布後5年以内の政令で定める日)に施行されます。
(令和3年9月時点)
◆相続登記・住所変更登記の申請義務化、手続きの簡素化・合理化
これまで任意とされていた相続登記や住所等変更登記の申請を義務化し、手続の簡素化・合理化が図られます。
〇相続登記の申請の義務化
不動産の相続人に対し「相続が開始して所有権を取得したことを知ってから3年以内に相続登記をしなければならない」と定められています。
つまり、以下の事実を知った時点から3年以内に相続登記をしなければなりません。
・被相続人が死亡した事実
・自分が不動産を相続して所有者となった
したがって、不動産の所有者が亡くなった場合に、亡くなったことを知らなかったり、亡くなったことは知っていてもその方が不動産を所有していることを知らない場合には、相続登記の義務は発生しませんが、両方の事実を知っている場合、相続登記の義務が発生します。
なお、施行日前に相続が発生したケースについても、この相続登記の申請義務は課されますが、施行日とそ上記の事実を知った日のいずれか遅い日から法定の期間(3年間)がスタートします。
正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられます。

【相続人がすべき登記申請の内容】
○ 3年以内に遺産分割が成立しなかったケース
▶まず、3年以内に相続人申告登記の申出(法定相続分での相続登記でも可)を行う。
▶その後、遺産分割が成立したら、遺産分割成立日から3年以内に、相続登記の申請を行う。
▶その後、遺産分割が成立しなければ、それ以上の登記申請は義務付けられない。
○ 3年以内に遺産分割が成立したケース
▶3年以内に遺産分割の内容を踏まえた相続登記が可能であれば、これを行う。
▶相続登記が難しい場合は、3年以内に相続人申告登記の申出(法定相続分での相続登記でも可)をした上で、遺産分割成立日(死亡日ではない)から3年以内に、相続登記を行う。
○ 遺言書があったケース
▶遺言(特定財産承継遺言または遺贈)によって不動産の所有権を取得した相続人が取得を知った日から3年以内に相続登記(相続人申告登記の申告でも可)を行う。

〇相続人申告制度の新設
不動産の相続人が「私が不動産の相続人です」と法務局に申出て登記をする制度です。
不動産の所有者となったことを知ってから3年以内に相続登記をしなければいけませんが、遺産分割協議ができないなどの事情により、相続登記をすることが難しい場合が考えられます。
そこで、先に「自分が相続人です」と法務局に申出ておくことにより、上記の相続登記の義務を履行したものとみなされる制度です。
相続人申告登記の申請があると、登記官はその不動産の登記に申出人の氏名や住所などの情報を付記します。
なお、この時点では正式な相続登記ではありません。
この申し出においては、法定相続人の範囲および法定相続分の割合の確定が不要とされ、申出をする相続人自身が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本を提出すれば足ります。
〇所有不動産記録証明制度の新設
相続登記の申請の義務化に伴い、相続人において被相続人名義の不動産を把握しやすくすることを目的に、特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産(そのような不動産がない場合には、その旨。)を一覧的にリスト化し、証明する制度が新設されます。
〇死亡情報についての符号の表示制度の新設
登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した死亡情報に基づいて不動産登記に死亡の事実を符号によって表示する制度が新設され、登記を見ればその不動産の所有権の登記名義人の死亡の事実を確認することが可能となります。
〇住所変更登記等の申請の義務化(他の公的機関との情報連携・職権による住所等の変更登記)
所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることが義務付けられ、正当な理由がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処せられます。
施行日前に住所等変更が発生していたケースについても、登記の申請義務は課されるため、注意が必要です。
一方、登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した情報に基づき、職権的に変更登記をする新たな方策も導入されます。
自然人の場合、次のように導入される予定です。
①あらかじめ、その氏名・住所のほか、生年月日等の「検索用情報」の提供を法務局に行う。
②法務局が定期的に住基ネットに照会をして所有権の登記名義人の氏名・住所等の異動情報を取得する。
③氏名・住所等の変更があると、法務局から所有権登記名義人に対し、住所等の変更登記をすることについて確認を行う。
④所有権登記名義人からその了解(申出)を受けると、登記官が変更の登記をする。
法人の場合、次のように導入される予定です。
①名称・所在地等に変更があると、法務省内のシステム間連携により異動情報を取得する。
②取得した情報に基づき、登記官が変更の登記をする。
〇形骸化した登記の抹消手続の簡略化
・買戻しの特約に関する登記がされている場合、その買戻しの特約がされた売買契約の日から10年を経過したときは、登記権利者(売買契約の買主)単独での当該登記の抹消が可能となります。
・登記された存続期間が既に満了している地上権等の権利に関する登記について、公的書類等で地上権者等や売主の所在を調査(現地調査までは不要)により権利者(登記義務者)の所在が判明しないときは、公示催告の申立ての後、除権決定を受けて、登記権利者単独での当該登記の抹消が可能となります。
・解散した法人の担保権(先取特権等)に関する登記について清算人の所在が判明しないために抹消の申請をすることができない場合、法人の解散後30年が経過し、かつ、被担保債権の弁済期から30年を経過したときは、供託等をしなくとも、登記権利者(土地所有者)が単独でその登記の抹消を申請することができることとなります。
◆相続土地国庫帰属制度の創設
相続または遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、その土地の所有権を国庫に帰属させる制度が創設されました。
要件審査を経て法務大臣の承認を受けた方は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付することで、その土地は国庫に帰属します。

 

◆土地利用に関連する規律の見直し
「利用の円滑化」を図る観点から、所有者不明土地の管理に特化した所有者不明土地管理制度を創設するなどの措置が講じられます。

 

「長期間相続登記等がされていないことの通知」が届いたら

登記記録上の所有者がお亡くなりになられてから30年を超えて相続登記等がなされていない土地について、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」に基づいて、登記官が相続人の調査を行い、対象土地の所有者の法定相続人のうちのお一人に相続登記の申請を促すために「長期間相続登記等がされていないことの通知」が送られています。
この通知が届いた方は、対象土地の相続人の一人ということになります。
対象土地を法定相続人間で誰がどのように相続するのか、話し合っていただく必要があり、これを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議が調ったら、対象土地の所在地を管轄する法務局で相続登記の申請をする必要があります。

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